体罰か虐待か (米国の高校スポーツの場合)

 先日、米国の体罰の歴史と、今も一部で学校での体罰が行われていることをこちらの記事に書きました。

「適切な体罰は必要」〜米国に根強く残るムチを求める声 - Global Press - 朝日新聞社(WEBRONZA)

 では、米国の学校の運動部での体罰はどうなっているのか。これも、私が調べて、分かったことを書いてみます。

 学校運動部は、学校の規則のもとに運営されています。ですから、学校体罰を禁止している州では、学校運動部における体罰も認められていません。学校体罰を禁止していない州では、学校運動部でも一定の条件において体罰が課される場合があります。

 私の住むミシガン州の場合、児童・生徒の体を叩くことや、無理に身体活動を強要することは禁じられています。ただし、体育や運動時に、身体を動かすように適切な要求をすることはこの限りではないとされています。

 学校体罰を禁止しているイリノイ州のシカゴパブリックスクールの運動部ハンドブックには、「体罰を使ってはいけない」と書かれています。 

 学校体罰を州法で禁じていないテキサス州のシャローウォーターという学校区の規則を定めたガイドブックをネット上で見つけました。7-8ページ。http://www.shallowaterisd.net/docs/Athletic%20Handbook-1.pdf

中学高校の運動部活動において、生徒が重大な規則違反をした場合には、体罰が用いられることが記されています。しかし、ここで示されている体罰は身体を叩くことではないようです。指導者の監視下で20マイルのランニングをすると書いてあります。

 違反の内容は下記の通り。

 1、故意に個人や学校の器物を破損した場合、盗みをした場合

 2、教師、コーチ、学校管理者を侮辱した場合

 3、タバコ、アルコール、違法薬物を使用、所持した場合

 4、対戦相手、審判を冒涜したり、スポーツマンシップに反する品行があった場合

20マイルといえば32キロメートルです。1日で走り切るのか、何日かに分けるのかもしれません。

 2回目の違反は、20マイル走と30日間の学校の代表として試合に出場することの停止処分。3回目の違反は残りの年度中、運動部に所属できないようです。

 このハンドブックの最終ページには規則を受け入れた場合には本人が署名し、保護者も署名するようになっています。

  ちなみにオハイオ州の高校では、罰としてのトレーニングを課すのは、学校の規則違反と見なされ、指導者が辞めたことは以前にもツイッターなどで書きました。

 日本語の「体罰」にあたる英語は「Corporal punishment」です。ただ、米国の学校運動部における「Corporal punishment」は、このようにあらかじめハンドブックで規定された、何らかの規則違反に対して体罰を課すことを指すようです。

 ですから、試合で失敗した、練習で手を抜いていたときに児童や生徒を叩いたり、指導者が怒りの感情を児童・生徒にぶつけたりするのは、「体罰」「Corporal punishment」という単語はあてはまらないようです。

 スポーツ指導時に、選手である児童・生徒を叩いたり、蹴ったり、罵ったりするのは「abuse」という単語、日本語の「虐待」で表現されています。

    検索機能を使って「Corporal punishment」「sports」などという単語を入れると、

 昨年、日本の高校生が体罰を受けた後に自殺したニュースの英文記事が出てきます。

 「abuse」「sports」と検索すると、米国でのスポーツ指導時にたたく、罵るなどといった事件やそれを防止しようとする記事に当たります。

 Sport in Contemporary Society 6th editionという本が手元にあります。これもグーグルブックで単語の検索をすると「Corporal punishment」では、0件でしたが、「abuse」では17件ありました。

  なんか、それがどうしたと言えば、まあ、それだけのことで何のオチもヒネリもない終わり方になってしまいました。「abuse」でヒットしてきた記事をいくつか読み、指導者が叩く、罵るということは日本だけの問題ではないようだと感じている次第です。

 

にほんブログ村 その他スポーツブログへ
にほんブログ村

 

 

米国学校スポーツとハンドブック

 昨日、ツイッターでつぎのようなことをつぶやきました。

 このようなハンドブックは、保護者に向けたものだけでなく、学生向け、指導者向けのものもあります。(どちらかというと学生向けが中心です)

 米国の学校においてハンドブックがどのような役割を持っているのか。これまで、私が調べて、わかったことを書いてみます。

 まず、運動部ではなく、学校が配布しているハンドブックについてです。 

 私の子どもが通うミシガン州デトロイト郊外の学校区でも、毎年、年度のはじめに「Student Code of Conduct」というハンドブックが配布されます。児童、生徒の責任、守らなければいけない規則、違反時の処分、懲罰についての詳細が(こまかい字でぎっしり)30ページわたって書かれています。

 児童・生徒が規則に違反する行為をしたときには、事前に配布しているこの基準に沿って、罰を課すということです。具体的にはどのような規則違反のときに、停学処分にするかなどが書いてあります。

 また、学校区で作成されたハンドブックをもとに、学校区内に複数ある中学校や高等学校でも、各学校の状況にあうように独自に冊子や印刷物で規則、懲罰、ドレスコードなどの詳細を示したものを配布しているようです。

  この責任、規則、懲罰を明文化したハンドブックは、全生徒を対象にしたものだけでなく、運動部員とその保護者、運動部の指導者を対象したものもあります。これがツイートしたテキサス州の保護者向けハンドブックです。これは州の高校運動部協会のようなところが作っているもので、このハンドブックを基準に、各校ごとにそれぞれの事情にあうものを配布しているのではないか私は推測しています。 

 私はちょうど2年前の1月、隣市の高校運動部の運動部統括責任者であるアスレチックディレクターに取材させていただきました。取材前の準備は、同校のホームページから運動部に所属する学生と指導者向けに作成している40ページもわたるハンドブックをダウンロードすることから始めました。

  ハンドブックには運動部内における生徒間のしごきやいじめの禁止や、トライアウトについての説明。フレッシュマン(1年生)や二軍チームでは、育成の目的でチームを運営していくこと、主に上級学年の選手で編成される一軍チームでは勝利を目指して運営していくことなども書かれています。規則違反に関する懲罰(運動部での活動停止処分など)についても明記されていました。

  一方、運動部の指導者にむけたハンドブックでは、生徒への声かけなど、どのような指導をするのがいいかなどがびっしり書かれていました。

  2年前、このハンドブックを読みながらも、私は、今ひとつ「ハンドブックの位置づけ」が分からなかったのです。

 先月『アメリカ合衆国における学校体罰の研究』(片山紀子著・風間書房)を読みましたところ、一節を割いて詳しい説明がしてありました。(かなりの値段がしますが、私には値段以上のものがありました)

アメリカ合衆国における学校体罰の研究―懲戒制度と規律に関する歴史的・実証的検証

 ハンドブックの変遷についてですが、もともと大学で作られていたハンドブックが、高校でも就学者増のために作成されるようになったこと。しかし、1915年の時点では全米でハンドブックを作っている学校はごく少数であったこと。1950年代ハンドブックを持つ学校が多数になっていたが、まだ、懲罰の具体的な書き込みなどは少なく、学校管理者の裁量に委ねられることが多かったようです。

 体罰とハンドブックの関係について。米国でも1970年ごろまでは、ニュージャージー州を除く全ての州で学校で体罰を課すことが認められていました。しかし、70年代以降、法律で禁じる州が増えていきます。体罰を廃止し、ほかの方法で学校の規律を維持していくという流れに変わります。そういった時代背景のなかで、これまで親代わりに罰を課してもよいと考えられていた教師の役割や権限が不明瞭になりはじめました。そのあたりから、主に理念や規則だけを記したものだったハンドブックの役割が転換していったというのです。教師の権限をはっきりさせ、生徒にも規則を守る義務があることを示し、違反行為には、ハンドブックであらかじめ定められている罰を課すということになっていったのだと思います。 

 70年代にはいり、学校体罰廃止の流れとともに、学校での問題は司法の場にも持ち込まれるようになり、司法に耐え得るハンドブックへと変換していったそうです。

 学校側が司法の場で自分自身を守るためでもあり、また、教師や指導者が自分の権限の範囲をはっきりと知ることで、何かを訴えられたときに、自分の身を守るためのものでもあるということでしょう。

  ツイートしたテキサス州のハンドブックもそうですが、運動部の生徒や学生、また保護者を対象にしたハンドブックでも、運動部の運営方針を明らかにし、熱中症の危険が高まる天候や雷発生時、脳震盪を含むケガの対応などが司法に耐え得るように書かれているのだと思います。ドーピングや薬物使用違反についての項目もありました。

  指導者向けのハンドブックにも、生徒の前で飲酒や喫煙してはいけないことなどが書かれており、どのような指導(例えば、プレーのミスを戒めるために生徒を叩く)が違法、または学区内の定めた規則違反になるかが分かるようにしてあります。

   昨年、アイオワ州の高校では、指導者から罰として走らされた生徒が、罰として走らされたが、これは学校の規則違反である、身体活動の強要にあたる、と訴えました。これもハンドブックに基づいての訴えでしょう。学校側の調査の結果、結局、ランニングを罰として課した指導者は辞めました。

 私は、選手も指導者も、運動部活動の規則に合意したうえで、運動部を運営するのは「お互いのやりやすさ」が得られてよいと思っています。しかし、数十ぺージにもわたり、詳細をすべて明文化して、それに従うことは「強制されている」「しんどいこと」「めんどうなこと」につながる恐れもあるのではないかと思っています。

 こうしたハンドブックの作成には、生徒、指導者、保護者、学校管理者がともに話し合ったうえで作られる必要があると思います。それであってこそ、生徒側は遵守する責任を負うことができます。

  それで、冒頭の保護者向けハンドブックに話を戻します。なぜ、大学でプレー続行できる人数や、プロ入りできる人数が冒頭に書かれているのか。それは、うちの子どもが奨学金をもらって大学にいけないのは、コーチの指導が悪い、十分な出場時間を与えられていない、などの苦情を学校に持ちこむ人がいるからではないのか、と私は考えています。

 「まず、ハンドブックを見てください。あなたの子どもの運動能力が劣っているのではないのです。指導者の指導が間違っているのではないのです。奨学金を得て、大学に進学してプレーできる生徒は少ないですし、プロになれるのはもっと少ないのですよ」と釘をさすためでもあるのでしょう。

にほんブログ村 その他スポーツブログへ
にほんブログ村

学校に更衣室がないらしい…

 ワールドシリーズが始まるころになると、冷え込んできますね。

 私の住んでいるミシガン州では、最低気温が氷点下付近。

 10月中はサマータイムのために、朝7時ごろはまだ真っ暗。

 こちらの6年生(日本では5年生)の上の息子は7時25分に家を出て、隣に住む友達と2人で歩いて500メートルほど離れたスクールバス停へ向かいます。

 ここからが本題。

 うちの息子はこんな寒いというのに半ズボンで学校へ行くのです。

 だらしない親選手権優勝候補の私ですが、ま、一応「今日は寒いで」ぐらいのことは言います。

 それでも彼は今朝も半ズボンで出かけていきました。

 体育の授業があって、長ズボンをはいていくと暑くて、思いっきり出来ないというのです。

 ①うちの子どもが通っている公立校には体操服がない。(たぶん、ほとんどの米国の公立校ではそんなものはないと思う)

 みんなバラバラの服を着て体育の授業を受けています。一応、学校に運動できる靴は置いていて、それに履き替えるようですが、うちはずっと運動靴なので、登校時の靴で授業を受けているようです。

 ②学校には更衣室がない。

 体育の授業のために着替えることはしません。みんな登校時の格好で体育の授業を受けています。先に述べたように靴は履きかえます。

 ③全館冷暖房

 体を動かすと暑くなるとはいえ、真冬に半袖、短パンで運動するのは、体が冷えすぎるという面からよくないのではと思いますが、息子たちは体育館で体育の授業をしています。学校内は冷暖房完備。そりゃ、20度の体育館で、子どもがわっさーといて、その全員が走り回ったら、暑いですわな。

 同じ体操服を着て、一斉に並んだり、行進したりといった内容も含まれているのが日本の体育。そのことへの批判もあるかと思います。

 ただ、体操服がなく、更衣室もないとなると、それなりに不便なようにも思います。

 しかも、汗をかいても着替えることもないので、次の授業中には体が冷えてくるそうです。

 全然、話が飛びますが、私の住んでいるところは、気温がマイナス20度とかまで下がると、休校になる場合があります。子どもたちがスクールバスを待てる状況でないという理由からです。

 寒い中、ずっと半ズボンで学校に行くのを放置していると、また、誰かから育児放棄を疑われないかしらんと被害妄想を膨らませている今日このごろです。